「うちの会社はBランクです」の意味──従業員に伝えたい“ランクの裏側”

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。毎月第二週は、経営事項審査(経審)関連テーマを綴っていきます。

「うちはBランクの会社だからな」「Aランクになるにはあと○点足りない」
そんな会話が、経営者や経理担当者の間で交わされることがあります。

けれども、その“ランク”が何を意味し、どんな価値を持っているのか――
社内の従業員にまできちんと共有されている会社は、決して多くありません。

今回は、経審ランクの本当の意味と、それを従業員と共有する意義について。
さらに、Aランクが常に“正解”とは限らないという、戦略的な視点も含めてお伝えします。


「経審ランク」は公共工事の“入場券”

まず前提として、経審ランクとは、主に公共工事の発注者に対する信頼度を数値化・ランク化したものです。

点数に応じて格付けされ、ランクごとに受注できる案件の金額や規模に制限があります。

  • Aランク:大型案件の元請も可能

  • Bランク:中規模の元請や下請けの中心層

  • Cランク以下:小規模工事や専門工事が中心

つまり、「うちの会社はBランクです」というのは、どのステージで勝負できる会社かを示す、いわば“ビジネスの通行証”なのです。


ランクは“点数”ではなく“行動の結果”

経審ランクは、決して一夜にして上がるものではありません。
技術職員の数、施工実績、工事成績評定、財務体質など、日々の仕事の積み重ねが数字となって反映されるものです。

  • 品質・安全・工期を守る

  • 赤字を出さず、利益を残す

  • 技術者が資格を取り、経験を積む

  • 良好な現場評価を得る

これらすべてが、最終的に経審の点数やランクに反映されていきます。
つまり、ランクは「経営者の成果」ではなく、社員全員の仕事の成果の集大成だと言えるのです。


Aランクを目指すことは“戦略”であって“義務”ではない

ここでひとつ、大切な視点を共有しておきたいと思います。

「ランクは高ければ高いほど良い」
そんな風に考えがちですが、実はそうとも限りません。

Aランクに上がれば、当然、大型案件の元請が可能になります。
けれどもその一方で、

  • 対応すべき業務量や管理負担が増える

  • 大きな資金繰りや保証の確保が必要になる

  • 技術者の体制や安全管理体制の高度化が求められる

など、背負うべき責任も一気に増します。

つまり、Aランクを目指すかどうかは、「点数が取れるかどうか」ではなく、
会社の経営資源と将来戦略に照らして“選ぶべきかどうか”を判断するべきことなのです。


なぜ従業員に「ランクの意味」を伝えるべきなのか?

ここまで見てきた通り、経審ランクは経営における重要な判断材料ですが、
それは経営者だけが把握していればよいものではありません。

むしろ、従業員と一緒に共有していくことが、会社の一体感や仕事の意味づけにおいて非常に大きな効果を生みます。

1. 日々の仕事が“会社の評価”につながっていることを知ってもらう

現場での丁寧な施工、安全対策、マナーある対応――
それらが、発注者の評価や工事成績に直結し、経審ランクに反映されているのです。
自分の仕事が会社の“名刺”をつくっているという実感を持てるようになります。

2. 資格取得や成長のモチベーションが変わる

経審では、技術職員の資格や経験年数が点数に大きく影響します。
「あと1人、一級施工管理技士が増えれば…」という状況を社員に伝えれば、
その取得が“個人のキャリア”だけでなく“会社全体のチャンス”につながることが伝わります。

3. 自社の方向性と戦略を共有するきっかけになる

たとえば、
「うちはBランクのまま、地域密着で安定経営を目指す」
という選択もあれば、
「Aランクを目指して組織体制を強化し、チャレンジしていく」
という選択もある。

どちらが正しいというものではありません。
重要なのは、その方針を社員と共有し、腹落ちさせることです。


ランクの話を「会社の未来」の話に変えていく

経審ランクは、単なる行政の格付けではありません。
会社がどこに向かおうとしているのか、そして何を大切にしているのかを象徴する数字でもあります。

だからこそ、「Aを目指すぞ!」と全社目標に掲げるのも、
「Bのまま質を高めて安定成長する」と戦略を定めるのも、
どちらも立派な経営判断です。

そして、その判断を従業員と共有することこそ、
経営と現場をつなぐ“見えない橋”になるのです。


まとめ:「うちの会社はBランクです」──だから何を目指すのか?

ランクは、点数で決まります。
でもその点数は、現場の汗と工夫と努力の積み重ねです。

そして、AでもBでも、そのランクをどう活かすかは会社次第。

  • 背伸びせず、身の丈に合った戦略を立てる

  • 社員とともに現実と理想のギャップを埋めていく

  • その過程に誇りを持つ

それが、経審ランクを“会社の誇り”に変える経営のあり方ではないでしょうか。