中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。
毎月第一週は、私自身の気づきや新しい視点、お知らせなどについて綴ります。今回は、『現場を動かす言葉の力――建設業の経営者が磨くべき「伝え方・気づき方・行動の導き方」』全4回の第1回です。
■「うまく言えないんだけどさ…」から始まる本音
「いや、別に今すぐどうこうってわけじゃないんですがね…」
建設会社の社長様と面談していると、こんなふうに言葉を探すように語り出す場面に何度も出会います。
数字の話や社員の話になると、社長様の表情や声のトーンが微妙に変わるのです。
一見、些細に見えるその変化の奥には、ご本人自身まだ“言葉になっていない想い”が隠れていることが少なくない気がしています。
そして、そうした想いに形を与えることができた瞬間、社長様の目の色が変わります。
経営に必要なのは、戦略だけではありません。社長自身が“本当に考えていること”を言葉にし、納得すること。それがすべての出発点になります。
■問題の核心は、言語化されていない“もやもや”にある
建設業は、現場での判断が経営そのものに直結する産業です。
つまり、経営者の思考の質は、そのまま会社の意思決定と社員の動きに影響します。
ところが、社長の頭の中にある「気になること」「言いにくいこと」「うまく説明できないこと」は、言葉にならないまま、見過ごされがちです。
この“もやもや”は非常にやっかいです。
なぜなら、言葉にならない不安やイライラは、誰にも共有できないため、社員の行動にもフィードバックできない。結果として、“なんとなく噛み合わない組織”になっていくからです。
■経営者の「内なる地図」を一緒に描くこと
私が経営支援をするうえで大切にしているのは、「問題を解決する」前に「社長の頭の中を一緒に整理する」ということです。
どこに違和感があるのか。
何に引っかかっているのか。
なぜその言い方になるのか。
社長が普段どんな感覚で物事をとらえ、何に価値を置いているのか。
この“内なる地図”を丁寧にたどっていくと、社長自身も気づいていなかった前提や思い込みが、ふと表に出てくる瞬間があります。
■ロジックだけでは人は動かない
私たちが何かを決めるとき、それがどんなに合理的に見えても、実は「感覚」「過去の経験」「価値観」といった非言語的な要素が大きく作用しているものです。
人は理屈で動くのではなく、「納得感」で動く。
逆にいえば、自分でも納得できないまま出す判断は、どこかブレてしまうのです。
経験したことのない領域で、未来を決めなければならないとき、必要なのは“知識”ではなく“内側から湧いてくる実感”です。
だからこそ、社長が「本当に腹落ちした状態」をつくる対話が欠かせません。
■「社長、なぜこの仕事をしているのですか?」
私は、面談の中でよくこんな問いを投げかけます(毎度、表現は少しずつ違いますが)。
「あなたは、なぜそのビジネスに取り組んでいるのか?」
「どんなお客様に、どんな貢献ができたとき、一番うれしいと感じるのか?」
すると、多くの社長様は「これしかできんかったけん」とか「たまたまです」と笑ったりした後、静かに、けれどとても力強く説得力のある理由を語ってくださいます。
その言葉には、売上目標や利益率には表れない、「原点としての想い」が含まれているのです。
私はそれを“掘り起こす”ことが、自分の役割だと思っています。
■【あとがき】――なぜそんな対話ができるのか?
私の問いかけや聴き方、タイミングの取り方、共感の仕方には、ある技術がしっかりと裏付けとして存在しています。
たとえば社長の言葉の使い方から「今どんな感覚で話しているのか」を感じ取るスキル。
本音を引き出すために「メタモデル」と呼ばれる深掘りの技術。
理屈ではなく、“納得できる感覚”を取り戻すための五感アプローチ。
そうした「自分自身が体感して身に着けた」技術、というより身体感覚が、私のコンサルティングの土台になっています。「自分自身が体感して身に着けた」とは、それによって私自身が目を開かされた、救われた、という意味です。自分自身が救われてみると、屈託を抱えている人のことがよくわかるようになります。なぜなら、それは「過去の自分」だから。
でも、あくまで主役は「社長自身の言葉」です。
私はその言葉が自然と出てくる場をつくる“きっかけ役”にすぎません。
次回は、「経営者の判断のブレには、実は“思考のパターン”がある」という話をお届けします。
ご自身の思考のクセを知ることで、より納得できる判断ができるようになる――そんな実践的なお話です。お付き合いいただきありがとうございました。