競合と差をつける!経営事項審査(経審)データを活用した競合分析の実践法

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。毎月第二週は、経営事項審査(経審)関連テーマを綴っていきます。今回は、少し視点を変えて、「同業他社の経営事項審査結果データを用いて自社と競合との比較分析をし、経営に生かす方法」について述べます。

はじめに:経審データは企業の通知表

建設業において「経営事項審査(以下、経審)」は、公共工事の入札に必要な審査ですが、それだけではもったいない情報の宝庫。競合分析や経営戦略策定のための貴重なデータ源にもなります。経審の結果には、企業の経営状況や技術力、財務の健全性が数値化されており、同業他社と比較することで自社の強みや課題が明確になります

特に、結果通知書の「工種別完成工事高」と下欄の「参考財務データ(売上総利益率・経常利益率など)」を活用することが有益です。売上規模だけでなく、収益性や経営の安定性も読み取ることができ、競合の経営戦略を把握する手がかりになります。

また、経営者さまの多くは「よそに負けたくない」という気持ちが強く、競合と並べて比較されると、「あそこには勝ってみせるぞ」と俄然改善意欲が湧くものです。比較表にすることで、「この部分は改善しなければ」「うちの強みはここだ」と、直感的に気づくことができます。本記事では、経審データを用いた競合分析の方法について解説します。


1. 競合比較に有効な経審データとは?

経審の結果通知書には、企業の経営状況や技術力を示す指標が記載されていますが、競合分析に活用すべきなのは「点数そのもの」ではなく、むしろ実際の財務データや工種別の施工実績です

比較すべき主な指標

  • 売上高(企業の規模を示す基本的な指標)
  • 売上総利益(粗利益)(施工管理・原価管理の巧拙が反映される)
  • 経常利益(企業の営業・財務の総合的な収益力を示す)
  • 重点工種の完成工事高(どの分野に強みを持つかが分かる)
  • 売上総利益率(企業の付加価値を示す)
  • 経常利益率(安定した経営体質かどうかを測る)

このようなデータを一覧にすることで、競合企業との違いが明確になります。


2. 競合分析に必要なデータの収集方法

① 公開されている経審データを入手する

経審の結果は、ウェブサイトで公開されており、容易に入手できます。

② 競合他社を選定する

データを比較する際には、まず比較対象を明確にすることが必要です。以下の視点で比較対象を選びましょう。

  • 地理的条件:自社と同じ地域で競争している企業
  • 業種・工事種類:自社と同じ建設工事(建築、土木、舗装など)を手掛ける企業
  • 売上規模:自社と同程度の売上規模の企業

③ 収集したデータを一覧化する

エクセルなどを活用し、競合企業と自社の経審データを一覧にまとめます。私は、横軸に自社と同業他社、縦軸に比較項目をとった比較表を作成しています。経営者様はほぼ例外なく、食い入るように比較表をみて、気持ちのこもったコメントをしてくださいます。


3. 競合との比較から自社の強みと課題を見つける

① 強みを把握する

競合と比べて自社が優れている点を見つけます。

  • 売上総利益率が高い → 施工管理がしっかりしており、利益率の高い工事を受注している
  • 経常利益率が高い → 経営の効率が良く、コスト管理がうまく機能している
  • 重点工種の完成工事高が競合より多い → 特定の工種に強みを持ち、市場で優位性を築いている

② 課題を特定する

競合よりも低い数値の項目をチェックし、改善すべきポイントを洗い出します。

  • 売上総利益率が低い → 原価管理の見直し、付加価値の高い工事の受注戦略を検討
  • 経常利益が低い → 経費削減や業務効率化を図り、利益率を改善
  • 重点工種の完成工事高が競合より少ない → 市場の需要を見極め、競争力のある分野へ注力

4. 経審データを活用した経営改善策

① 技術力をさらに強化する

  • 施工管理技士や建築士の資格取得を促進し、技術力を底上げする

② 財務健全化を図る

  • 不要な借入を削減し、利益率の高い工事を増やす

③ 受注戦略を見直す

  • 競合の工種別完成工事高を分析し、「どの工種を強化すべきか」を検討する
  • 工期は長いが粗利額の大きい工事、工期が短く粗利額は小さいが粗利率がよい工事、あるいは手離れがよく着工時期を自社でコントロールしやすい工事の組み合わせを工夫する

5. 競合の経営方針を読み取り、自社の作戦を練る

経営者や経営幹部は業界に精通しているため、競合の経審データを分析することで「ライバルはどのような仕事を志向しているか」が見えてくることが多いです。

例えば、競合A社が電気工事の完成工事高を減らす反面、電気通信工事を伸ばしている場合、
「何らかの技術的テーマを捉えて電気通信工事に特化しようとしているのではないか?」
と推測できます。

こうした情報を踏まえて、当社としては自社の強みと市場環境に照らしてどの工事に注力すべきか?といった戦略を立てることができます。


まとめ:データを使いこなした会社が勝つ

経審データは、競合との比較によって自社の強みと課題を明確にし、成長戦略を考えるための強力なツールです。中国の兵法書『孫子』に「己を知り敵を知れば百戦危うからず」という有名な一節があります。より深く「己を知り、敵を知る」ことで、より戦略的な経営へとつなげようではありませんか。