経営事項審査(経審)の本当の意味とは?「点数を上げること」が目的ではない理由

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。毎月第二週は、経営事項審査(経審)関連テーマを綴っていきます。

経営事項審査(経審)は、公共工事を受注するために必要な制度ですが、点数を上げること自体がゴールではありません。

「とにかく高得点を取れば良い」「ランクを上げれば仕事が増える」と考えてしまうと、経営の本質を見誤る可能性があります。特に、会社の規模や得意分野と合わないランクアップを目指してしまうと、かえって経営を圧迫することにもなりかねません

本記事では、経審の点数をどう活用すれば、自社にとって最適な受注環境を整えられるのかについて解説していきます。


1. 経審の点数は「目的」ではなく「手段」

多くの建設会社が、経審の点数アップに注力しています。しかし、本来の目的は 「自社にとって最適な工事を安定的に受注すること」 です。

たとえば、経審の結果に基づいてD級からC級に昇格し、自社の得意な工事の入札機会を増やすという判断は合理的です。しかし、明確な理由もなく「A級を目指すべきだ」「とにかく高得点を取るべきだ」と考えるのは、経営戦略として適切とは言えません。

点数を上げることは手段であり、目的ではない という本質を忘れないようにしましょう。


2. ランクが上がれば良いわけではない理由

「B級よりA級の方が良い」というのは、一見すると正しいように思えます。しかし、工事の種類や発注機関の傾向を考えたとき、必ずしもそうとは限りません。

(1)ランクが上がると工事の性質が変わる

一般的に、ランクが上がると受注できる工事の規模は大きくなりますが、その分競争も激しくなり、以下のようなリスクが生じます。

  • 大手企業との競争が激化 → 落札率が低下し、受注できる案件が減る可能性
  • 高度な技術・設備が必要な工事が増える → 自社の強みを発揮しにくい
  • 下請けに回るリスクが増加 → 元請としての安定した収益確保が難しくなる

特に、中小建設業の場合、無理に上位ランクを狙っても、かえって競争が激しくなり、利益を確保できない可能性があるのです。

(2)自社の強みを活かせるランクを考える

例えば、「小規模で専門性の高い工事」を得意とする企業が、ランクアップによって大規模案件に参入するとどうなるでしょうか?

これまでの顧客層と異なる発注者と取引する必要がある
大手ゼネコンとの価格競争に巻き込まれる
現場管理の体制を大幅に強化しなければならない

結果として、利益率が低下し、経営が厳しくなるケースも少なくありません。

したがって、「ランクを上げること」が本当に自社の成長につながるのかを慎重に検討する必要がある のです。その前提となるのが、自社の得意な工事(工種、規模、工期)が明確に把握できていることです。


3. 経審の「点数アップ」が本当に必要なケースとは?

経審の点数を上げるべきかどうかは、以下のポイントを基準に考えると良いでしょう。

(1)入札制限を解除するためのランクアップ

例えば、現在D級で「自社の得意な工事がC級以上に分類されている」場合は、ランクアップを目指す価値があります。このケースでは、点数を上げることで受注機会が広がるため、経営上のメリットが明確 です。

(2)競争力を高めるための点数改善

特定のランクにおいて競争が激しく、わずかな点数の差で落札機会を逃している 場合は、点数アップが有効です。たとえば、

  • 経営状況(Y点)の改善 → 財務体質を健全化し、安定感をアピール
  • 技術力(Z点)の向上 → 資格取得支援や技術者育成を強化

このように、自社の競争力を強化するために点数を上げることは有意義 です。


4. 経審の点数より大切な「経営判断」

経審の点数は、会社の経営状態を示す1つの指標ですが、それがすべてではありません。以下のような視点を持つことで、より経営判断の精度が高まります。

(1)競争環境を理解する

同じランクの企業がどのような入札戦略をとっているのか、競争相手の状況を把握することが重要です。

  • 地域ごとの入札傾向を分析する(例えば、抱き合わせ発注が増えている等)
  • 自社と同じランクの企業の落札状況を調査する

これらの情報をもとに、点数を上げるべきかどうかを判断しましょう。

(2)自社の経営資源と照らし合わせる

無理にランクアップを目指すと、資金繰りの悪化や人員不足などの問題が発生する可能性があります。工期の長さや受注額の規模が適しているかに留意することが大切です

  • 資金計画を見直し、ランクアップ後も安定経営ができるか
  • 現場管理の人員や体制が対応可能か

経営の全体像を見ながら、最適な点数調整を考えることが大切です。


【まとめ】

経審の点数を上げること自体が目的ではなく、「自社にとって最適な受注環境を整えること」 が本質です。

✅ ランクアップを目指すべきケース

  • 現在のランクでは受注機会が少なく、上位ランクに適した得意分野を持っている
  • 競争環境の変化に対応するために点数アップが必要

❌ やみくもな点数アップが危険なケース

  • 単に「高得点=良い」と考え、実態に合わないランクアップを目指す
  • 自社の強みを活かせない工事が増える可能性がある

経審の点数を戦略的に活用し、「自社にとって最も利益の出るランクで安定した受注を確保する」ことを目指しましょう。