中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。
私がメモを取り始めたのは、仕事で失敗を繰り返し、どうにか克服しようともがいていた新入社員時代のことです。子供の頃から忘れ物が多く、計画性もなかった私にとって、メモは単なる備忘録ではなく、「行動の道しるべ」となりました。
しかし、メモの本当の価値に気づいたのは、それが単なる記録の枠を超え、「次の行動」を生み出す力を持っていると理解したときです。
特に経営において、「記録することが次の行動を支える」という仕組みを作ることが、組織的な実行力を高め、KPIの達成を可能にする鍵であることを、私は多くの現場で実感しています。
この記事では、私自身の経験を交えながら、メモとKPIの関係について整理し、「メモがもたらす実行力」についてお伝えします。
メモの効用:記録から行動へ
メモの目的は「次の行動」を生むこと
メモの本質は単なる記録ではなく、「次に何をすべきか」を具体的に引き出すためのツールです。たとえば、私は次のようなシンプルなメモ術を習慣にしています。
1. タスクを書き出す:具体的な行動に細分化して記録。
– ×「報告書作成」→ ○「報告書をAさんに確認して提出」
2. 終わったら赤線で消す:達成感を味わうと同時に漏れを防ぐ。
3. 週・月単位で振り返る:繰り返すタスクや漏れを確認。
このプロセスを続けることで、日々の小さな行動が大きな成果につながり、行動を体系化する力が身につきます。
KPIとは何か?:ゴールへの道しるべ
KPIは行動の羅針盤
KPI(重要業績評価指標)は、目標達成への進捗を測る指標です。しかし、それが単なる数字にとどまってしまうと、現場で実行に結びつきません。真に役立つKPIとは、具体的な行動と紐づいているものです。
たとえば、営業目標を設定する際に「売上1,000万円を達成する」というKPIだけでは不十分です。この目標を分解し、「月に1回営業資料を携えてA社のB部長を訪問する」「週に10件の新規リストを作成する」などの行動レベルにまで落とし込む必要があります。
そして、そのKPIの進捗度が把握されていることが大切です。そもそもKPIはKGI(重要目標達成指標)を実現するための行動を細分化・指標化したものですが、前掲の「月に1回営業資料を携えてA社のB部長を訪問する」を例にとると、個々のKPIにも細分化したプロセスがあることにお気づきになるはずです。
次回訪問の端緒となるB部長からの宿題をもらうことに始まり、それを踏まえた情報収集をして営業資料を作成し、説明手順を考え、アポイントをとり訪問する。そこでまた次回訪問の端緒となるB部長からの宿題をもらう…というKPIサイクルを支えるのが、「何をどうどこまでやってどうなったのか」のメモだというわけです。
言語化が生む「実行力」
KPIを設定しても、それをチーム全体で共有し、具体的な行動計画に落とし込まなければ実現は難しいです。メモの力が発揮されるのはここです。言語化されたメモを使うことで、チーム内での認識のズレをなくし、「何をすべきか」が明確になるのです。
メモとKPIをつなぐ実践方法
メモはKPI実現の「道具」
メモがKPIの達成に役立つのは、それが行動を具体化し、日々の記録を通じて進捗を「見える化」するからです。以下は、私が推奨するメモとKPIを結びつけるプロセスです。
1. KPIを小さな行動に分解する
– たとえば、「取引先A社との関係強化」という目標を、「月に2回の訪問」「週に1回の電話フォロー」といった行動に分解する。
2. メモに行動計画を記録する
– 毎週、具体的なタスクをノートに書き込み、達成したものを赤線で消していく。
3. 振り返りと軌道修正を行う
– 週末に「できたこと」「できなかったこと」を振り返り、次の行動に反映する。
4. チームで共有する
– メモをもとにした行動計画をチームと共有し、進捗や課題を話し合う。
このように、メモはKPIを現場レベルの行動に結びつけるための「橋渡し」の役割を果たします。
メモを活かした「実行力」の事例
顧問先での成功例:ハウスビルダーA社の場合
ある中小建設会社では、KPIとして「年間契約数〇件」を設定していました。しかし、具体的な行動計画が不足しており、目標が宙に浮いた状態になっていました。
そこで私は、KPIを基に追客プロセスを細かく言語化し、担当者全員がそれを意識して日報を書き、営業会議で報告する仕組みを導入しました。具体的には次のような形です。
– 成果目標:お盆までに5件のクロージング。
– 週の目標:追客ランクAのお客様を次のプロセスに進める。逆にテストクロージングの結果をみてクロージングに時間がかかるお客様の追客ランクを落とす。
– 日次タスク:お電話でのテストクロージング、アポイントの獲得。
これにより、チーム全体が「次に何をすべきか」を正確に把握できるようになり、結果として目標を達成するだけでなく、士気も向上しました。
メモがもたらす「行動の定着」と「継続性」
KPIの達成は、地道な行動の積み重ねによってのみ実現します。そして、その行動を支えるのがメモの力です。メモを習慣化することで、以下の効果を実感できます。
– 行動の定着:記録することで、タスクの漏れや忘れを防ぐ。
– 継続性の確保:振り返りを通じて、次の行動につなげる。
– 進捗の見える化:チームで共有することで、モチベーションを維持する。
おわりに:KPI達成はメモが支える
メモとKPIは直接的に結びつくものではありません。しかし、メモを活用することで、KPIを具体的な行動計画に落とし込み、実行と振り返りを繰り返す仕組みが生まれます。メモがなければ、「どこまでできたか」が曖昧になり、KPIはただの数字に終わってしまうでしょう。
「覚えているから大丈夫」と思わず、まずは小さなメモから始めてみてください。それが、目標を達成するための第一歩になるはずです。あなたのKPIも、きっとその積み重ねの中で形になっていくでしょう。