中小建設業専門の経営コンサルタントの長野研一です。
生成AIの登場は、建設業界にも大きな変化をもたらしつつあります。誰でも簡単に情報収集や分析、資料作成ができるようになった今、私たち経営コンサルタントは、改めて「プロフェッショナルとしての価値」を問われていると感じます。
今回は、経営コンサルタントとしての私の生成AIへの向き合い方についてお話します。
1. 「誰でもできる時代」に、真のプロとしてどう生き残るか?
以前は、専門知識や高度な分析力を持つコンサルタントだけが提供できたサービスが、今では生成AIを使えば誰でも簡単に手に入るようになりました。財務分析も、経営戦略立案も、AIに指示すれば「それらしいもの」はあっという間にできてしまいます。
しかし、本当に重要なのは、「それらしいもの」を作ることではありません。AIが出した結果がどの程度の品質のものかを正しく判定し、必要に応じてさらにAIに指示を出し、活用できるかどうか。そして、最終的に「成果」に繋げられるかどうかです。
真のプロフェッショナルとは、AIを使いこなしながら、自身の経験や知見、人間力を駆使して、顧客の課題解決に貢献できる人材です。
2. 生成AIとの正しい向き合い方 ― 丸投げは危険!
生成AIはあくまでも「ツール」です。便利だからといって、安易に頼りすぎるのは危険です。AIが出した答えを鵜呑みにせず、自分の頭で考えることが重要です。
また、生成AIは万能ではありません。専門性の高い分野や、人間の感情や倫理が関わる問題は苦手です。AIの得意・不得意を理解し、適切なタスクに活用することが大切です。自らに十分な知見がなければ、AIが出した答えが不正確・不十分であることに気が付かないかもしれません。
3. コンサルタントとして、私が生成AIに「教える」こと
生成AIは、いわば「忖度一切なしの『聞かれたことしか答えない』秀才」です。細かい質問をすると詳しく答えてきますし、曖昧に聞くと曖昧な答えが返ってきます。また、専門性の高いことは苦手で正確性が劣ります。ですから、AIを使うにあたっては、AIの苦手なことはちゃんとこちらが教えてあげる配慮が欠かせません。
例を挙げて説明しましょう。ビジネスの成算があるかどうかをつかむ代表的な経営分析手法に「3C分析」があります。3Cとは、「Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の3つの頭文字を取ったもので、これでマーケティング環境を抜け漏れなく把握できるというわけです。
生成AIは、この3C分析にも大いに活用できます。ですが「お客様はどんな人で、どんな悩みや課題を持っているか」「自社はどんな製品やサービスをどんな条件で提供しようとしているか」をきちんと示さないと、市場・顧客や自社に関する分析はひどくぼんやりとしたものになります。一方、競合分析に関してライバルのウェブサイトURLを指定して分析させると、競合先の動向や強みや弱みまでも教えてくれます。
AIに投げかける質問の精度を上げるには、「以下の条件を踏まえて教えて」と条件付けをすることです。前出の3C分析では「当社の新製品のターゲット顧客の詳細な人物像」など生成AIが調べてもわからない情報はこちらが提供する必要があります。これらの情報をAIに与えることで、より精度の高い分析結果を得ることができ、効果的な解決策を提案することができるというわけです。
4. 顧客との対話から生まれる、AIを超える価値
生成AIは、顧客対応の一部を自動化してくれるかもしれません。しかし、お客様との面談は、単なる情報収集の場ではありません。信頼関係を築き、顧客の潜在的なニーズを引き出す、かけがえのない機会です。
私は、AIを活用しながらも、お客様との対話を重視しています。面談を通して、お客様の言葉の奥にある真意を読み取り、AIでは分析できない感情や状況を理解することで、より深いレベルで顧客を支援できると考えています。
さらにいえば、お客様との面談は、自らのヒアリング力を上げる場と言う側面もあります。生成AIを安易に用いることで、自らの力量を上げる機会を手放すのはもったいない気がします。
5. 「誰を救いたいのか?」 生成AIで深める顧客理解
ところで、中小建設業の経営においても、顧客ターゲティングは非常に重要です。誰に、どんな価値を提供したいのか? これを明確にすることで、経営資源を効率的に活用し、最大の成果を得ることができます。
生成AIは、顧客ターゲティングにおいても強力なツールです。顧客データの分析はもちろん、市場トレンドや競合情報の収集にも役立ちます。
しかし、大企業の場合と違って、中小零細企業の場合には、顧客ターゲット像が経営者の思いと強く連動してこそ、高い推進エネルギーが得られる側面があります。したがって「自分が本当に救いたいのは誰だろうか、いちばん喜ばせたいのは誰か」という視点がきわめて重要になってきます。
これが見つかれば、その社長様の視座は確実に上がるといってよいでしょう。「誰を救いたいのか?」「誰をいちばん喜ばせたいのか?」は、社長様にしか決められません。私は、社長様の想いを引き出し、顧客ターゲット像を明確にすることを大切にしています。
これまで見てきた通り、生成AIは、私たち経営コンサルタントの仕事を大きく変える可能性を秘めています。「自分の付加価値のポイントはどこか」を不断に意識し、AIを「相棒」として活用することで、真に顧客に貢献できる存在を目指していきたいと思います。