昨日、10年来のお客様と事業承継(経営権承継)に向けてのサポートに関するお打ち合わせをしました。
具体的なコンサルティング提案は後日行うことにしましたが、今回は「社長から後継社長(専務)への職務権限移譲計画書の作成」に取り組むことを提案したいと思います。
この記事では、職務権限移譲計画の重要性や進め方について述べていきます。
職務権限移譲計画の重要性
事業承継は、単に権限を引き継ぐことではなく、企業の文化や理念を次世代に受け継ぐ重要なプロセスです。特に建設業界では、社長の個人的なネットワークやスキル、知識が企業の成功に大きく影響を与えるため、後継者への適切な権限移譲が求められます。
この計画を立てることで、社長は自身の業務を整理し、後継者にいつから、何を、どんな順序で任せるかを明確にすることができます。その結果として、最後の最後まで任せることが難しい業務をも明らかにできます。
さらに、職務権限移譲は「見えない権限」の可視化も促進し、経営の透明性を高めます。これにより、後継者は自らが取り組まなくてはならないことを明瞭に把握し、担当職務に集中することができるようになります。職務権限を具体化し、明確な委譲をもくろむのは「名ばかり社長」をつくらないためでもあるのです。
職務権限移譲計画の作成手順
1. 現社長(会長)の業務内容の整理
職務権限移譲計画を作成するにはコツがあります。まず現社長の業務内容を把握することが重要です。具体的には、日常業務、週次業務、月次業務、スポット業務の4つのカテゴリーに分けて、業務内容を整理します。
– 日常業務
例えば、社長が毎朝出社してから夕方までに行う業務の中で、社長でなくてもできる業務は何かを尋ねます。これには、日常のマネジメント業務や決済、指示業務が含まれます。
– 週次業務
特定の曜日に行う業務、会議での指示業務、創造的な業務を明確にします。これにより、後継者に委譲可能な業務が見えてきます。
– 月次業務
毎月のルーチン業務を聞き出し、権限の移譲を計画します。
– スポット業務
不定期の業務についても把握し、権限移譲の計画に反映させます。
この整理作業は、現社長が自身の業務を見直す機会にもなります。
2. 権限の移譲タイミングを決定
次に、どの業務をいつ後継者に任せるかを具体的に決めます。この段階では、移譲する権限を「即移譲する権限」「3年以内に移譲する権限」「会長として最終権限を持つ業務」に分類します。委譲項目のABC分析をするわけです。この分類は、後継者が責任を持って業務を行うためのステップを示します。
3. 見えない権限の可視化
見えない権限を明確にすることは、職務権限移譲計画において非常に重要です。見えない仕事や見えない権限は、聞き出さない限り、あぶり出すことができないだけに、一連のプロセスのキモといえます。具体的には、以下のような質問を通じて、見えない業務や権限を明らかにします。
– 「社長が普段どのような判断をしているか?」
– 「業務の中で特に注意すべきポイントは何か?」
このヒアリングにより、後継者が承継後に直面するであろう状況を事前に把握することが可能になります。
職務権限移譲計画の整理一覧表
職務権限移譲計画をまとめるためには、「権限移譲項目・業務責任整理一覧表」を作成します。この一覧表には、以下の項目を記載します。
– 業務内容
– 移譲タイミング
– 注意すべきポイント
– 決済・判断業務の重点ポイント
この表は、社長が業務を整理し、後継者に必要な情報を提供するためのツールとなります。
事業承継の進め方と課題
事業承継計画を作ったものの、その後の進め方で迷っている会社は少なくありません。と言うより、ほとんどの会社がそうなのではないでしょうか。
1. 事業承継チェックシートの活用
まず事業承継チェックシートを用意して、これを初回のヒアリング項目として使うと、その会社の課題がいろいろみえてきます。私自身は、RE経営の嶋田利広先生が作成された『経営承継50のヒアリングシート』が非常によくできているので、これをそのまま使っています。
このチェックシートの中には、その会社なりの数値の目安やKPI (重要、業績評価基準)を訪ねるものや、後継者に自分なりのビジョンを考える場を作ることを促す質問、年度経営計画の策定は、後継者の教育ツールでもあることを示唆する質問などもあり、押し付けがましくならずに「ああ、そういうことも大切だな」と気づいていただく機会ともなっています。
2. 経営者と後継者の対話の場を作る
経営者と後継者が同席し、未来の戦略やビジョンについて話し合う機会を設けることが不可欠です。日常業務では、未来の話をする機会が意外に少ないため、誤解が生じやすくなります。重要なのは「お二人でよく話しておいてくださいね」ではなく、コンサルタントが同席して、この話し合いのプロセスを「文字化」し、記録として残すことが重要です。これにより、双方の理解を深めることができます。
3. 事業承継10か年カレンダーの作成
事業承継の計画を具体化するためには、「事業承継10か年カレンダー」を作成します。このカレンダーには、経営者と後継者が共有すべき「非財産相続承継」の決め事やビジョンが凝縮されます。必然的に「中期経営計画」「中期ロードマップ」「年度の経営計画書やアクションプラン」が必要になることも自然とご理解していただきやすくなります。
ここまで読んでいただいて「事業承継計画ができているということは、そんな議論はもう済んでいるのではないか?」と疑問に思われる向きもあろうかと思います。
事業承継計画をつくった経験のある社長様にならご理解いただけると思うのですが、事業承継計画という書類作成優先でことを進めてしまうと、仏を作ってなんとやら、という事態が起こるのは避けられないのです。
おわりに
社長様との間では、権限委譲計画を入口に、次の10年間の経営計画に着手する話も出ていますが、まずは建設業向けの事業承継10か年カレンダー実例サンプル(実際のコンサルティング例を事例企業が特定できないように一部仮装したもの)をご覧に入れてイメージをつかんでいただこうと思っています。
後継者が自信を持って業務を遂行できるよう、現社長の業務を整理し、権限を適切に移譲するプロセスが具体化すれば、この企業様の未来像も一層具体的な輝きを放つようになるはずです。