士業目線に固執していないか?
私自身を含め、専門家と呼ばれる人の多くには、士業としての視点が強く染みついているのではないかと感じることがあります。経営問題を扱うとき、私たちは無意識のうちに、士業としての専門知識に基づいて判断しているのではないかということです。
例えば、経営者が「新しいアイデアを思いついたから、真似されないように実用新案登録をしたい」と相談してきた場合、知的財産権の専門家であれば「そのためにはこうすればいい」と具体的なアドバイスをするかもしれません。これが士業目線での対応です。
しかし、社長の懐刀として経営に寄り添うパートナーとしての立場ならば、「簡単に真似されるようなアイデアに価値はないですよ」と言うべきではないでしょうか。そのアイデアがまだ広まっていない理由は、斬新さにあるのではなく、実行ややり抜くことが難しいからこそ価値がある。つまり、社長が今本当に集中すべきことは、もっと他にあるのではないか、と問いかけるべきだと思うのです。
経営の本丸を見極める
私がかつて、大変見識のある税理士の先生と事業承継について話をしていたときのことです。後継者にリーダーシップを発揮させ、権限を段階的に移譲する方法について話していたところ、「たしかに、そういう前さばきも大事ですね」と言われたのです。私にとっては、これこそが事業承継の本丸であると感じていたのですが、その先生にとっては、事業承継の本丸は税務テクニックの方だったのかもしれません。
この違いは、私たちが経営にどう向き合うかに深く関わっています。士業としてお客様に対応するのか、それとも、経営全体を見渡して社長の懐刀として本質的な問題に切り込んでいくのか。ここが重要な分岐点です。もちろん、どちらがよくてどちらが悪いという話ではありません。
士業としての知識やスキルに基づいてアドバイスすることは間違いではありません。しかし、それだけでは経営者が抱える本当の悩みや課題に十分に応えることはできません。経営のパートナーとして、社長の視座を高め、会社の未来に向けたサポートをすることが求められていることもまた間違いないのです。
私自身が気付いた自分の欠点
最近、私自身が気づいたことがあります。それは、クライアントの話を聞きながら頭の中で対策を考えてしまう癖があるということです。この癖のせいで、話の真意を深く掘り下げることができず、結果として相手の本当の強みや悩みの核心に迫れないことがありました。なぜそうなるのかと自問したとき、私は「コンサルタントとしての力量を示してクライアントに認められたい」という気持ちが無意識に働いているのではないかと思い当たりました。
「コンサルタントは解決策を提示する存在だ」という一般的な認識もあり、つい「解決策を示せる自分を評価してほしい」と思ってしまうのかもしれません。ある若い友人にこの話をしたところ、彼は「僕自身も思い当たります」と言い「狙いすましてホームランを打つべきところを、セコくバントで刻もうとしちゃうんですよね」と、巧みに表現してくれました。
この欠点を克服するため、私は実践を重ねてフィードバックを受け、クライアントの話により深く耳を傾ける努力を続けています。経営のパートナーとして真にお客様に貢献するためには、まずは自分の思考の癖を修正する必要があると感じるからです。
どうありたいかを明確にする
士業としてお客様と向き合うか、それとも社長の懐刀として寄り添うか。これは私たち自身がどのような存在でありたいかの選択です。士業としての専門知識を駆使するのも大切ですが、経営者が抱える課題の本質に迫るためには、別の視点が必要になります。
これは私自身が経験したことですが、自分がクライアントに何を通じてどんな貢献をするのかが自分自身腹落ちすると、焦りや戸惑いがなくなります。以前はそこに大いに迷いがありましたが、『誰に、自分のどんな特性を生かして、相手の何に着目し、どういうことを明らかにして、どんなアウトプットとして結実させるか、そしてそれによってお客様をどんな状態にするか』が明らかにできたいまは、それ以外のいろいろなことが手放せるようになり、お客様に貢献することに集中できるようになりました。蛇足ですが、前出の『誰に、自分のどんな特性を生かして、相手の何に着目し、どういうことを明らかにして、どんなアウトプットとして結実させるか、そしてそれによってお客様をどんな状態にするか』こそが具体的サービスの説明になるのでしょう。
本当に貢献するための姿勢
自分が貢献したいのは誰か。それさえ自分の中で揺るぎないものにできれば、「本当に貢献できるだろうか」などと不安に思う必要はないと思います。能力不足は、自分以外の誰かを投入すればカバーできるからです。「カッコつけたい」「アタマがいいと思われたい」という気持ちは誰しも少なからずあるものでしょうが、それを「自分が貢献したい誰か」より優先すると、最善策がとれなくなることはご理解いただけると思います。そういう邪心があるからオープンマインドになれないわけです。だからこそ、自分の心の中のわだかまりをきれいにしていく勇気と覚悟がいります。一見それは、お客様と関係のないように見えますが、実は非常に大きいと私は見ています。
経営者を動かす「夢づくり」
経営者を本気で動かすには、その人自身が「やりたい」と思うようにする必要があります。言い換えれば、経営者が目指すべき夢を一緒に描き、その夢を実現するための行動を共に設計していくことです。これこそが「夢づくり」と言えるでしょう。
私が今取り組んでいるテーマの一つが、KGI(重要目標指標)に基づいてKSF(成功要因)を明確にし、それを実現するための具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することです。ここで重要なのは、KPIを財務や結果の指標だけに依存せず、行動そのものを管理することです。結果数値は直接コントロールできませんが、それを生み出す行動はコントロール可能です。これにより、望む結果を能動的に生み出すための仕組みを構築できるのです。
ラポールの構築—信頼関係が全ての基盤
初めてお客様と会うとき、ラポール(信頼関係)の構築はすでに半分以上完了していると感じることがあります。そのために心がけているのが、私が経営顧問になったときの具体的イメージをていねいに説明することです。私が経営顧問になったら、月に何回、何時間来て、誰々と会って何をするのか。面談では何をもとにどんなやりとりをするのか。その成果としてどんなアウトプットが生まれるのか。その結果、何がどう変わるのか。かりに、説明が社長様にジャストフィットするものでなかったとしても、経営顧問としての具体的イメージを描いて見せてこそ「こいつなら俺の悩みを打ち明けても良い」と思っていただけるのではないでしょうか。私はそう信じて日々活動しています。
おわりに
岡目八目ということがあるとしても、経営者の深い悩みや疑問に答えるには、経営の定石や過去の経験則、他社の成功事例を踏まえるだけではとても足りません。また、顕在化している情報を何らかのフレームに落としてみても、そうそういい打ち手が見えてくるわけではないこともご理解いただけるでしょう。
そうした中で、経営者の懐刀としてお役にたつためには、単に経営上の助言をするコンサルタントにとどまらず、コンサルティングとコーチングを両方操れる人材になることが不可欠だとあらためて感じています。
コンサルティング発想では、専門知識や経験に基づいて、問題解決策を提供し、具体的なアクションプランを示すことが中心となります。経営者に対して明確な答えや解決策を提示し、その結果を導くために助言を行うのがコンサルタントの役割です。この発想では、コンサルタントが知識や技術を持ち、それを経営者に提供して成果を上げることが期待されています。
一方、コーチング発想は、経営者自身が内なる答えを引き出し、自らの気づきや意欲を高めることに焦点を当てます。コーチは答えを与えるのではなく、質問や対話を通じて、経営者が自ら考え、行動できるようサポートします。この発想では、相手の潜在的な強みを引き出し、主体的な行動を促すことが重視されます。
「社長様の中には、ご本人がまだ気づいていない答えや、それにつながるヒントがあるはずだ。それを引き出し、言語化するお手伝いをしよう。」コーチング発想とは、まさにそういう姿勢です。
「社長の懐刀として寄り添う」というアプローチは、コンサルティングとコーチングを組み合わせてこそ可能になります。単に問題解決を提示するだけでなく、経営者が自ら真の課題に気づくようサポートするという、コーチング的な要素も重要な視点となるのです。もっといえば、真の課題に気付けるのは経営者をおいてほかにない、というべきかもしれません。