はじめに
中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。
建設業界において売上を増やし、利益を確保するために、投資を先行することは必要不可欠ですが、それだけにさまざまな問題が浮上します。
私が建設会社の社長様をはじめ従業員のみなさんと一緒に取り組む際には、具体的なファクト(事実)、とりわけ顧客接点におけるファクトに着目し、企業の強みを最大限に活かすための方法を探ります。この記事では、私がコンサルティングを行う際の具体的な着眼点と、建設業でよく見られる「あるあるネタ」を紹介しながら、成功に導くためのアプローチの一端をお伝えします。やや雑駁ですが、お付き合いください。
現金残高の動きに見るリスク:2年前、1年前、そして今年
建設業の経営において、現金残高の変化はその会社の経営の健全性を測る重要な指標です。私はまず、2年前、1年前、そして今年の現金の動きに着目するとともに、各勘定科目や費目の増減をみます。特に注目すべきは、売掛債権、棚卸資産、買入債務がどのように変動しているかです。
ここで見逃してはならないのが、赤字を回避する等の目的で経理上何らかの操作が行われている可能性です。このような操作は一時的に会社の財務状態を良く見せるかもしれませんが、中長期的には自社の本当の経営状態がわからなくなる危険があります。結果的に、本来必要な経営改革に踏み切れず、気がついた時にはもはや時間の問題、という例もあるのです。
隠れた強みを引き出し、一石三鳥の打ち手を作る
私のコンサルティングの基本は、企業の隠れた強みを引き出し、それを最大限に活かすことです。多くの場合、企業には外からは見えにくい独自の顧客資源や技術や経験があります。
こうした強みを組み合わせ、さらにそれが生きる機会(例えば、隠れた強みを生かした提案をいちばん喜んでくれる顧客はだれかを具体的に考える)ことで、弱点の解消を図る以上に業績を向上させることが可能です。しかし一方で、他社の良い点を取り入れることも忘れてはなりません。競争相手を意識しつつ、自社の強みを活かすことが、持続可能な成長への鍵となります。
社長の人脈に依存する営業力のリスク
建設業界では、社長の人脈が営業力の核となっているケースが多く見られます。しかし、このような場合、後継者へのバトンタッチに失敗すると、顧客が離反が起きて、会社の売上に大きな打撃を与えることがあります。特に中小建設業では、このリスクが顕著です。 「先代の社長にはお世話になったが、いまの社長に義理はない」という声はよく聞くところです。
こうした事態を回避するには、早めに後継者に営業のノウハウや人脈を引き継ぎ、顧客との関係を構築させることです。後継者が直接足を運び、顧客との関係性を築くことで、スムーズなバトンタッチが可能になります。後継者問題に早めに取り組むことは、顧客の離反を防ぎ、会社の安定した経営を確保するために不可欠なことなのです。
●建設業あるあるネタ1:見積り原価と粗利益の悩み
建設業では、見積り原価にどれだけの粗利を上乗せするかが常に課題となります。粗利を多く取れば利益は出ますが、その分見積もり金額が高くなり、失注のリスクが増えます。逆に、粗利益を少なくすると受注はしやすくなりますが、十分な利益が得られない可能性が高くなります。
ここで重要なのは、現場の稼働状況を念頭に判断することです。例えば、手余り状態にある場合は、粗利益が少なくても積極的に受注することが合理的です。これは、労務費は固定費であるため、受注がなくても経費が発生するからです。このように、見積もりを弾力的に調整し、機会損失を最小限に抑える判断が重要です。
●建設業あるあるネタ2:現場監督の負担と分業化
現場監督は工事全体の進行管理、コスト管理、安全管理など多くの業務を一手に担うスーパーマンのような存在です。しかし、その業務量は非常に多く、すべてを完璧にこなすのは現実的に難しい状況です。
そこで、現場監督の業務を分業化し、専門スタッフに管理業務を割り振ることで、効率化を図る必要があります。例えば、コスト管理は専任のスタッフが行い、現場の進行管理は別のリーダーが担当することで、現場監督の負担を軽減し、業務の効率を高めることが可能です。人材不足が深刻化する中、このような役割分担は今後さらに重要となっていくでしょうし、現場監督をいわば「遠隔操作」でバックアップするしくみも欠かせないものになっていくはずです。
●建設業あるあるネタ3:現場と営業担当の連携
ある建設会社では、月に一度、営業担当者と現場監督が集まり、お互いの得意分野や成功事例を共有する取り組みを行っています。このような社内の情報共有は、各自のスキル向上に貢献し、さらに顧客提案力の強化にもつながります。
また、現場監督が施工中のデータを持ち寄り、問題点を共有しながら改善策を議論することで、現場での効率化が図られます。例えば、ある会社では、施工スピードが遅い現場に対し、他の現場の成功事例を参考にしながら改善策を提案したところ、見事に目標達成できた事例があります。現場と営業が連携して課題を解決する風土が、利益を生む鍵となるのです。
まとめ:実務に根ざした経営改善こそが成功への道
建設業のコンサルティングにおいては、企業の実務に深く根ざしたアプローチが不可欠です。経営者や現場の声を拾い上げ、実際に改善すべき課題を明確にし、対策を講じることが、結果につながります。
また、経理操作のリスクや、現場監督の負担の軽減、後継者への営業力の引き継ぎといった問題にも早期に対処することで、持続可能な成長を実現することができます。
今後も、建設業の経営者の皆様がより良い判断を下し、成功へと導けるよう、実務に即したアドバイスを提供していきます。
当ブログでは、今後もより具体的な「建設業あるある」事例を取り上げ、より実践的な経営改善のヒントをお伝えしていきます。引き続きお楽しみにしていただければと思います。