建設会社の社長が「相手を知る」ことの大切さ – 本当の信頼を築くために

1 はじめに

建設業界で成功するためには、チームの協力がとても大事であることは、すでにご承知のことと思います。経営者の仕事は、閑散期にトップセールスで仕事をとってきたり、現場や管理資料を見て改善点を考えたり、幹部や後継者を育てたり、部下に方針や指示を伝えたり、と多岐にわたりますが、チームメンバー(自社の従業員や協力業者—手間請や常用の人たち)やお客様(元請さんや施主さん)の気持ちやニーズを理解することもまた非常に重要です。今回は、「相手を知る」ことの大切さと、そのための方法についておはなしします。

2 相手を知ろうとするとどんないいことがあるのか

生産性の高いチームの共通点は、お互いをよく知っていることです。例えば、現場の監督や職長が、職人たちの得意なことや苦手なことを知っていれば、それぞれの強みを活かした役割分担ができたり、的を射た適切な注意を与えたりすることができます。その結果、効率が上がり、仕事がスムーズに進みます。

相手のことを理解しようとする姿勢は、信頼関係を築く基本でもあります。自分のことを理解してくれていると感じる相手の言うことは、自然と聞き入れやすくなります。たとえば、安全対策について指示を与えるとき、従業員が「社長は、俺たちの安全を真剣に考えて言ってくれているんだ」と感じられるか感じられないかで、受けとめ方、ひいては安全対策の実効性はずいぶんと違ったものになってきます。

3 実際の成功事例

事例1: 職長さんの隠れた能力を引き出す

ある中小建設会社で、社長様に「従業員さん個々に、こういう役割を期待していて、それに向けていまはこの仕事に取り組んでほしい。何年か後にはこういうポストを用意する。というように、経営者としての期待と相手が将来をイメージできるような対話が大切ですよ」と例を挙げてお話ししました。

すると社長様は、さっそく何人かの部下にそうした話をされたようで、そのうち如才ないタイプの30代後半の職長さんには、「きみを見込んでの話なんだが…」と、これまでまったく経験のない近隣対策の仕事を任せたそうです。

淡々とそれを受け入れた職長さんでしたが、ふたを開けてみると、社長様自身も「これほどとは思わなかった」とおっしゃるほど近隣者とスムーズに良好な関係を築き、職長さん自身も非常に手ごたえを感じた由。いまでは資格取得など、これまであまり取り組んでこなかったテーマにも意欲的に取り組まれています。

事例2: 異業種を協力業者として取り込むことに成功

ある会社では、工事人材の不足から現場作業チームが複数編成できず、それが業績アップの制約になっていました。同社の強みがもっとも発揮できる、しかも引き合いが強く収益性のもっとも優る事業部門にもかかわらず、です。こうした事情から、営業手腕には自信のある社長さんも、見込み客に積極的に売り込むことができないどころか、ご依頼をお断りするケースも少なくなく、機会損失を生んでいました。

あるきっかけから意欲的な異業種と出会い、まだ業歴の浅い彼らの悩みや問題意識を聞くうち、社長様から「教育研修費はうちが持つから、この仕事を手伝ってみないか?」とスカウトしました。この異業種は、社長様が見込んだ通り、信頼できる頼もしいパートナーとして貢献してくれています。その企業のお困りごとについて一緒に考えてあげる、というところからスタートし、同様の協力業者とも業務提携を結ぶに至っています。こうした取り組みを通じ、弾力的な施工体制が組めるようになったことで、発注者からの評価も上がりました。

4 相手を知るには具体的にどうする?

(1)定期的なコミュニケーション

相手を知るためには、定期的なコミュニケーションが大切です。例えば、月に一度のミーティングや一対一の面談を行うことで、日常的に意見を交換し、互いの理解を深めることができます。

お客様との関係でいえば、訪問やお電話、あるいはニュースレターやお手紙をお送りすることで、接触を絶やさないことです。

(2)インタビューやアンケート調査の実施

従業員や協力業者からのフィードバックを得るために、定期的に面談やアンケート調査を行うのも効果的です。個別面談では両者が率直に意見を交換することで問題意識を共有し、信頼関係を築くことができますし、匿名でのアンケート調査を行うことで、面と向かってはいいにくい率直な意見を集めることができます。

(3)トレーニングとワークショップ

相手を理解するためのスキルを養うために、トレーニングやワークショップを実施することも重要です。コミュニケーションスキルやリーダーシップに関する研修を通じて、相互理解を深める基盤を築くことができます。

いや、これはあくまで一般論で、私個人の見解としては「相手は意味のある考えや感想を持っていて、それに関心を持って知ろうとする」という相手尊重の姿勢が根本に必要だと思っています。

その相手尊重の姿勢を育てるうえでも、クロスSWOT分析による一石三鳥の打ち手発見ワークショップはきわめて有効です。「あいつ、普段は黙っているけどこんな考えを持っているのか」「意外と勉強家だな」「なかなか言いことに気づくじゃないか」と、参加者相互に気づくことができるからです。そのうえ、一石三鳥の打ち手のネタが発見できるのですから、やらない手がありません(絶賛受付中です←これは宣伝)。

5 お客様のニーズを知ることの大切さ

(1)お客様の本当のニーズを理解する

情報発信と称して、自社の製品やサービス、受賞実績などを熱心に宣伝したり、新製品や新サービスの開発に熱心な企業は数多いですが、製品やサービスの裏付けであるお客様の行動やお困りごとには驚くほど無関心であったり、リサーチに不熱心であったりする姿がしばしば見受けられます。これは一体、どうしてなのでしょう。

レビットの「ドリルの穴の話」を聞いたことがありますでしょうか。「ドリルを買う客が欲しいのは、ドリルそのものではではなく、ドリルを使って開ける穴だ」というものです。レビットは、こうした比喩で、本当にお客様が求めているものを理解することの大切さを言い表しました。

お客様が何を求めているのか、お客様のほんとうのお困りごとは何なのかを知ってこそ、より良いサービスや製品を提供することができるはずです。しかし、世間には、躍起になってドリルのバリエーションを増やしたり、ドリルの高性能化を図って「これで売れるはず」と言っている企業が少なくない気がします。そうした自分勝手な思い込みだけでことを進めても、得られる成果はごく限られたものになってきます。

(2)顧客満足度の向上

お客様のニーズをしっかり理解することで、顧客満足度が向上します。例えば、ある建設会社では、新しい住宅を建てる際に、お客様の生活スタイルを詳しく聞き取り、隠れたニーズを探りました。

もちろん「どのような生活を望んでいますか?」とお尋ねして当意即妙のこたえが返ってくるはずもありません。ではどうしたか。「日々の生活の中で、ご家族全員が揃うのはいつですか?」と問いかけたのです。こたえは様々でしたが、『ご家族全員が揃う場』をもっとも重視したプランにしたのです。

たとえば家族が揃うのが「朝食のとき」ならばダイニングルームを、「午後9時過ぎ」ならばリビングルームを間取り設計の中心に据えたわけです。その結果、お客様の言葉にならない期待に応える家を建てることができ、満足度が大いに高まることにつながりました。

6 実践するための具体的なステップ

(1)日常的なコミュニケーションの強化

毎日の業務の中で、社員や協力業者とのコミュニケーションを大切にしましょう。ちょっとした会話や挨拶も、相手を理解するための大切な機会です。

(2)定期的なミーティングの実施

月に一度のミーティングや一対一の面談を計画し、意見交換の場を設けましょう。これにより、日常的なコミュニケーションでは聞けない深い話をすることができます。

(3)アンケート調査の活用

定期的にアンケート調査を行い、社員や協力業者の率直な意見を集めましょう。匿名での調査を行うことで、より本音に近い意見を得ることができます。

(4)トレーニングとワークショップの開催

コミュニケーションスキルやリーダーシップに関するトレーニングやワークショップを開催し、社員や協力業者との相互理解を深めるためのスキルを養いましょう。

7 まとめ

建設業界で成功するためには、社長として「自分のことを知ってもらう」よりも「相手のことを知ろうとする」姿勢が大切です。ここで「相手」とは、お客様だけではなく、従業員や仕事上のパートナー(協力業者さんなど)、さらには就職希望者をも含みます。

相手を理解することで、信頼関係を築き、チームの生産性を向上させることができます。また、お客様のニーズを理解することで、より良いサービスや製品を提供し、顧客満足度を高めることができます。

相手を知るための努力を惜しまず、プロフェッショナルな姿勢でチームを導いていただけたらと思います。