こんな営業会議にしたかった

いら立つ経営者と委縮する部下

戸建住宅やアパートの建設を主とする建設会社の経営顧問をしていたときのことです。

その会社の社長様は、大工から叩き上げた立志伝中の人物で、好もしい魅力的なお人柄ではありましたが、部下には厳しく「成果なければ報酬なし」という考えをお持ちの方でした。

社長様は、(彼自身からみると意欲がなく手ぬるいと感じられる)部下の仕事ぶりに苛立つことが多く、強い調子で叱責することもたびたびありました。私は月一度の営業会議に必ず出席していたのですが、その席でも営業部員のみならず司会役の専務までもが叱責されて立ち往生する場面もあったほどです。

仕組み化の不足もあったのですが、営業や工務の担当者たちが活性を失い、萎縮しているのは明らかなように思えました。

どのように人々を巻き込み、意欲がでるようにしたか?

・中間成果を意識した報告と評価を提案

営業部員の中には、いい線まで追客するものの、なかなかクロージングに至れない人物がいました(その原因は見当がついたのですが、早期解決は困難と思われました)。私は、最初の顧客接点からクロージングに至る流れをプロセス図解して示し、社長にはプロセスが前に進んだことを中間成果として認め、より先のプロセスに進めるようサポートすることを意識するよう進言し、営業部員たちには、どの客がどの段階にいて、それをいつまでにどの段階までどのような方法で進めるのかを考え、営業会議や営業日報ではそれを意識して報告してほしいと要請しました。

社長様は「そんな考えもありますか」と一応の同意を示してくれたものの、明らかにご納得されていない様子でした。結果は後述します。

・営業会議を問題解決の場に

前述のように、営業会議では専務様が司会者を務めており、私自身は話が停滞したとき、漂流したときの陰のファシリテータたることを意識していました。

あるとき、法的紛争に発展しかねない営業上のトラブルが発生し、専務様がその対応にあたっていました。彼の報告から事実関係は概ねわかったのですが、今後どう対応していくのかについては一向にみえてきません。社長様はもう相当にイライラしてきており、専務様もそれを感じて汗をかいています。

私は専務様におもむろに尋ねました。「専務、これ、どういう状態になったら、問題解決といえますか?」「そのためにはどんな条件が揃う必要がありますか?」「その条件を満たすためにいま考えておられる対策は?」つまり、私はコーチングによる問題解決を図ろうとしたわけです。専務様にアドバイスを与えるのではなく、質問を通じて専務様自身の視野を広げ、新たな視点やアプローチを模索するサポートをしようとしたのです。

何度か質問応答を重ねるうち、社長様が口を開きました。「専務、それでいいじゃないか。対処の仕方がはっきりしたじゃないか」「はい、そうですね…」結果的に、専務様はご自分の能力や知識を活用して問題解決に漕ぎつけることができました。

会議終了後、社長室に呼ばれ、社長から感動したような表情で「先生、私がしたかったのはこんな営業会議だったんです!」とお礼をいわれました。

・営業会議の変化

営業部員たちの報告内容が明らかにプロセスを意識したものに変わってきたのはそれからでした。最初は私が「ということは、●●邸は前述の理由から追客ランクをBに下げ、かわりに▲▲邸を…ということですね?」などと言葉を継いだりしていたのですが、次第にその必要もなくなりました。営業部員各々から「お盆までにクロージングを図ります。逆算すると6月中に…」といった、今月、来月の中間成果目標が語られるようになったのです。おのずと受注成果も好転していきました。

・社長様の変化と従業員の変化

中間成果という考え方に懐疑的と見えた社長様があるとき私にこうおっしゃいました。

「先生、私ね、最近従業員を怒鳴ることがなくなったんです。日報を見て彼らの動きが手にとるようにわかるようになったから。こちらも適切に助言できるようになりました」「クロージングが苦手な奴も、モデルルームを案内してお客様の心をつかむのは上手いんです。それをどうクロージングに繋げるかを考えてやらないといけないんですね。そこで考えたのが…」

従業員の姿勢にも変化がみえました。営業成績トップのN課長は他の営業部員に範を示すような動きをしてくれました。いままで一度も笑顔を見たことのない現場監督が笑顔で「ようこそいらっしゃい」と笑いかけてくれたのにはちょっと驚きました。

 

このコンサルティング現場体験から得られた教訓

「具体的に例を示すこと」

口頭説明だけでは理解してもらえません。目に見える実例を示し、やってみせることでイメージをつかんでもらうことが大切ですね。

「変化を目の当たりにして人は本気になる」

叱責される場であった営業会議が問題解決の場に変わる。人はそうした変化を目の当たりにしてはじめて実感がわき、やってみようと思うのではないでしょうか。

「経営者と従業員の仲介者の役割」

経営コンサルタントは、経営者の参謀であると同時に、ときに従業員との仲介者の役割を担うべき局面があり、それは自ら現場に入っていってこそ可能になるということ。私にとって大きな気づきになった体験でした。